宅建業の営業保証金とは|供託・還付・不足額・取戻しを整理
宅建業の営業保証金を、主たる事務所1000万円・支店500万円、供託と届出、還付、不足額の補充、取戻し、保証協会との違いまで現行法令で整理します。

宅建業法の学習で、営業保証金は数字と手続が一度に現れます。1,000万円、500万円、2週間。さらに供託所、免許権者、還付、取戻し、保証協会が続き、用語だけを暗記すると誰が何をするのか分からなくなります。
制度の中心は単純です。宅地建物取引は扱う金額が大きく、業者が損害を賠償できない場合に消費者が深刻な不利益を受けます。そこで、営業を始める前に一定額を供託し、取引で生じた債権の弁済に備えます。
先に一行で覚える
営業保証金は、宅建業者が主たる事務所の最寄りの供託所へ供託し、免許権者へ届け出てから営業を始める制度です。金額、場所、相手、順序をこの一文へ足していきます。
営業保証金はいくらか
宅地建物取引業法施行令2条の4は、主たる事務所につき1,000万円、その他の事務所につき事務所ごとに500万円と定めています。本店1か所だけなら1,000万円。本店1か所と支店2か所なら、1,000万円+500万円×2で2,000万円です。

ここで数えるのは、宅建業法上の「事務所」です。登記上の本店・支店だけでなく、継続的に業務を行える施設があり、契約締結権限を持つ使用人を置く場所が事務所に当たる場合があります。案内所を全て500万円で数えるわけではありません。
新しい支店を設ける場合は、その支店分を供託し、届出をした後でなければ、その事務所で事業を開始できません。計算問題では「本店」「支店」「案内所」の言葉だけで決めず、法上の事務所に該当するかを読みます。
どこへ供託するのか
営業保証金は、主たる事務所の最寄りの供託所へ供託します。支店ごとに別々の法務局へ500万円を置くのではありません。本店と支店分を合計し、主たる事務所を基準に供託します。
供託所は法務局などです。免許を出した国土交通大臣や都道府県知事へ直接預ける制度ではありません。試験では「免許権者」「供託所」「保証協会」が入れ替えて出題されやすいため、役割を線で結ぶと整理できます。
- 免許権者:国土交通大臣または都道府県知事。免許と届出を扱う。
- 供託所:営業保証金を供託し、要件を満たす還付手続を扱う。
- 保証協会:加入した社員について弁済業務保証金制度を運営する。
現金以外でも供託できる
営業保証金は金銭のほか、国債証券、地方債証券など法令で認められた有価証券で供託できます。有価証券は種類により評価額が異なるため、額面の合計だけで必要額を満たすとは限りません。
学習では、まず「金銭または一定の有価証券」「両者の併用も可能」を押さえます。実務では、使用できる証券、評価、提出書類を供託所へ事前確認します。古い教材にある名称や割合だけで手続を進めるべきではありません。
免許・供託・届出・営業の順番
営業保証金の問題で最も大切なのは順序です。宅建業の免許を受け、必要額を供託し、供託した旨を免許権者へ届け出た後に営業を開始します。免許証が手元に届いた瞬間から契約業務を始められるわけではありません。

免許を受けた者が、免許日から3か月以内に供託した旨の届出をしない場合、免許権者は届出をすべき旨を催告できます。催告が到達してから1か月以内にも届出がなければ、免許を取り消すことができます。「直ちに自動失効」ではなく、催告と取消しの流れです。
この規定は、免許だけ確保して資力保全をしないまま放置する状態を防ぎます。数字は「3か月で催告、催告到達から1か月で取消し可能」と、誰の行為かまでまとめて覚えます。
誰が営業保証金から弁済を受けられるか
宅建業者と宅地建物取引業に関し取引をした者は、その取引により生じた債権について、営業保証金から弁済を受ける権利を持ちます。ただし、現在の法27条は、取引相手が宅地建物取引業者である場合を除いています。
対象になるのは、宅建業に関する取引から生じた債権です。どのような債権でも会社への請求があれば営業保証金から払われるわけではありません。事務所の文具代、従業員給与、私的な借金は、通常「宅地建物取引業に関し取引をした」ことから生じた債権ではありません。
弁済を受けられる上限は、その業者が供託すべき営業保証金の額です。個々の被害者が常に全額の弁済を受けられると保証する制度ではなく、複数の請求が重なる場合もあります。
還付が起きた後、業者はどうするか
営業保証金から還付が行われると、供託額が法律上の必要額を下回ります。免許権者がその事実を宅建業者へ通知し、業者は通知を受けた日から2週間以内に不足額を供託しなければなりません。さらに、供託した日から2週間以内に、その旨を免許権者へ届け出ます。

「還付の日から2週間」と覚えると誤ります。起算点は、免許権者から不足額を供託すべき旨の通知を受けた日です。供託と届出は別の行為で、それぞれ期限を確認します。
営業保証金は一度納めれば永久に完了する預金ではありません。弁済に使われた後も所定額を維持し、次の取引を保護する必要があります。この循環を理解すると、不足額補充の意味が見えます。
営業保証金を取り戻せる場合
廃業、免許取消し、免許の失効、一部事務所の廃止など、必要な供託額がなくなるか減る場合は、営業保証金の全部または一部を取り戻せます。ただし、過去の取引から債権を持つ人が後から現れる可能性があるため、すぐ自由に引き出せるわけではありません。
原則として、営業保証金について権利を持つ者へ6か月以上の期間を定めて申し出るよう公告し、その期間内に申出がない場合に取戻しが可能になります。一定の場合は公告を要しない例外がありますが、まず「取引相手の権利を確かめてから返す」という趣旨を押さえます。
事務所を一つ閉じた場面では、供託全額ではなく減少分が問題になります。本店1、支店2から支店1を廃止すれば、必要額は2,000万円から1,500万円へ減るため、対象は500万円です。
保管替えとは何か
主たる事務所が移転し、最寄りの供託所が変わる場合、営業保証金を新しい供託所へ移す手続が問題になります。金銭だけで供託している場合には保管替えを請求する仕組みがあります。一方、有価証券を含む場合は、移転先で新たに供託した後、従来の供託を取り戻す手続になります。
この違いは、有価証券という現物性のある供託を帳簿上だけで移せないことから考えると覚えやすい。試験対策では「本店移転」「供託所変更」「金銭のみか、有価証券を含むか」をチェックします。
保証協会へ加入する場合との違い
多くの宅建業者は、営業保証金を直接供託する代わりに、国土交通大臣が指定した宅地建物取引業保証協会へ加入します。社員は弁済業務保証金分担金として、主たる事務所60万円、その他の事務所1か所につき30万円を保証協会へ納付します。
ここで「60万円しか消費者保護がない」と考えるのは誤りです。保証協会は社員から受けた分担金をもとに弁済業務保証金を供託し、弁済を受けられる限度額は、その社員が営業保証金を供託していたなら必要だった額を基準とします。
直接供託と保証協会を混ぜないため、次の対比を持ちます。
- 営業保証金:宅建業者 → 主たる事務所の最寄りの供託所。
- 弁済業務保証金分担金:保証協会の社員 → 保証協会。
- 弁済業務保証金:保証協会 → 所定の供託所。
保証協会の社員が直接営業保証金も重ねて供託する、という関係ではありません。社員となった場合は営業保証金の供託義務が免除されます。
数字を場面へ戻す
営業保証金の数字は、孤立した暗記カードにすると崩れます。次の三場面へ戻してください。
- 開業:本店1,000万円、支店500万円ずつ。主たる事務所の最寄りへ供託し、届出後に営業。
- 被害回復:宅建業に関する取引債権を持つ者が、上限の範囲で還付を受ける。
- 維持:還付後は通知から2週間以内に不足額を供託し、供託後も届出。
たとえば、本店と支店1か所の業者なら必要額は1,500万円。一般消費者への還付で300万円不足し、免許権者から通知を受けたなら、2週間以内に300万円を追加供託します。支店を廃止して必要額そのものが1,000万円へ減る場面とは、理由も手続も違います。
実務では公式窓口を確認する
供託手続には、供託書、資格証明、供託物、提出方法などが関わります。オンライン化や様式変更もあるため、学習用のまとめだけで実際の開業手続はできません。法務省の供託Q&A、免許権者の最新案内、管轄供託所を確認します。
また、顧客が還付を求める手続も、債権があると主張すれば自動で支払われるものではありません。対象取引、債権額、相手が宅建業者でないことの確認などが必要です。個別紛争は免許行政庁、供託所、弁護士など適切な窓口へ相談します。
営業保証金は、試験のための数字ではなく、免許を市場の信用へ変える仕組みです。誰が預け、誰へ届け、誰が弁済を受け、使われた後に誰が補うか。この四者を追えば、長い条文も一本の流れとして読めます。
よく混同する五つのポイント
免許を受けた場所へ供託するのではない
大臣免許だから東京の供託所、知事免許だから都道府県庁へ供託、ではありません。基準は主たる事務所の最寄りの供託所です。免許権者へ行うのは、供託した旨の届出です。
支店分も本店最寄りへまとめる
支店ごとに500万円を各地へ分散して供託するのではなく、主たる事務所1,000万円とその他の事務所分を合計します。支店が県外にあっても、この供託先の原則は変わりません。
還付対象と一般債権者は同じではない
宅建業者にお金を貸した金融機関、事務所工事をした施工会社なども一般の債権者にはなり得ます。しかし営業保証金の還付には「宅建業に関し取引をした」ことから生じた債権という範囲があります。制度の目的は、会社の全債務を担保することではありません。
保証協会の分担金と弁済限度額を同じにしない
社員が協会へ納める60万円・30万円は分担金です。消費者が弁済を受けられる限度をその金額と考えるのは誤りです。また、協会加入には分担金以外の入会金・会費等が生じる場合があり、法定分担金だけで実際の加入費用を表せません。
2週間には二つの手続がある
還付後、免許権者から通知を受けて不足額を供託する期限が2週間。さらに不足額を供託した日から2週間以内に免許権者へ届け出ます。前半は金銭の回復、後半は行政が回復を確認するための手続です。
ケース問題で確認する
ケース1:本店1、支店3の業者が直接供託する。必要額は1,000万円+500万円×3=2,500万円です。営業保証金を支店所在地の供託所へ分ける必要はありません。
ケース2:そのうち支店1を廃止する。必要額は2,000万円へ減りますが、過去の取引相手を保護するため、原則として公告など所定の取戻し手続を経ます。廃止日に500万円をそのまま引き出すわけではありません。
ケース3:一般消費者が売買契約に関する債権200万円について還付を受けた。免許権者から通知を受けた業者は、2週間以内に200万円を供託し、供託後も2週間以内に届け出ます。
ケース4:宅建業者Aが宅建業者Bとの取引で債権を持った。現行法では宅建業者に該当する取引相手は営業保証金の還付対象から除かれます。古い過去問や改正前教材では結論が違うため、出題年度を確認します。
過去問を解く時の線の引き方
金額へ丸、期限へ四角、行為者へ下線を引きます。「通知を受けた日」「供託した日」のような起算点は二重線。供託所と免許権者が一文に出たら矢印で行為を結びます。この読み方は保証協会の問題にも使えます。
改正をまたぐ問題では、取引時点や法施行日が結論へ影響します。市販テキストの版、e-Govの施行日、試験実施機関が示す法令基準日をそろえて学習してください。
参考資料
法令・手続は改正されます。本稿は2026年8月時点の現行法令を確認して編集した学習記事であり、個別の法的助言ではありません。