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建築

構造力学の基礎|荷重・反力・せん断・曲げを図で理解

構造力学の入口を、荷重、支点反力、つり合い、軸力、せん断力、曲げモーメント、応力、たわみの順に図解。単純支持ばりの基本計算も説明します。

BY MY ARCHITECT11 MIN READ
構造力学の基本

構造力学の教科書を開くと、最初から矢印と記号が並びます。何を計算しているのか分からないまま公式を覚え、支点条件が少し変わると手が止まる。苦手意識の多くは、数学より先に「力の物語」が見えていないことから始まります。

建物に加わった重さは、床、梁、柱、基礎、地盤へ渡されます。構造力学は、その途中で部材がどのような力を受け、どのくらい変形しようとするかを整理する道具です。まずは一本の梁を、力が通過する道として読んでみましょう。

この記事の位置づけ
初学者が用語と符号の意味をつかむため、理想化した静定構造を扱います。実際の建築設計には、法令、荷重組合せ、材料非線形、座屈、接合部、耐震、地盤などの検討が必要です。ここにある例題だけで部材寸法や安全性を決めず、実施設計は構造設計者へ依頼してください。

構造力学は「自由物体図」から始まる

梁を計算する時、建物の写真をそのまま眺めても力は見えません。対象とする部材を周囲から切り離し、外から受ける荷重と、支点が返す力を矢印で描きます。これが自由物体図です。

矢印には、大きさ、向き、作用する位置があります。単位は力ならN(ニュートン)やkN、曲げモーメントならN・mやkN・mです。長さのmmとmを混ぜると千倍違うため、式へ入れる前に単位をそろえます。

荷重には種類と時間がある

構造物そのものの重量、仕上げ、固定設備は固定荷重。人、家具、積載物は積載荷重。ほかに積雪、風、地震、土圧、水圧、温度変化などがあります。同じ下向きの矢印でも、いつ、どの範囲へ、どの組合せで作用するかが違います。

一点へ集めて表す集中荷重と、長さに沿って広がる分布荷重も区別します。現実の壁や床の重さは面・線へ分布しますが、反力を求める時に合力へ置き換えられる場合があります。置換した合力は、分布の重心位置へ作用させます。

支点は部材の動きを止め、その代わりに反力を返す

平面内の物体には、左右へ動く、上下へ動く、回転するという三つの自由度があります。支点はその一部を拘束し、拘束した方向に反力を生じます。

  • ローラー支点:通常は支承面に垂直な一方向を拘束し、一つの反力を持つ。
  • ピン支点:水平・鉛直移動を拘束し、二方向の反力を持つが回転は許す。
  • 固定端:水平・鉛直移動と回転を拘束し、二つの力と反力モーメントを持つ。

図の三角や丸を形だけで覚えず、「どちらへ動けて、どちらへ動けないか」を指で試すと、未知反力の数が分かります。

中央に集中荷重Pを受ける単純支持ばりの両端にPの二分の一ずつの反力が生じる図
左右対称の中央集中荷重なら、鉛直反力は左右で等しくなります。編集部作図。

つり合いの三条件

静止している平面構造なら、外力は次の三条件を満たします。

ΣH = 0(水平方向の力の合計が0)
ΣV = 0(鉛直方向の力の合計が0)
ΣM = 0(任意点まわりのモーメントの合計が0)

Σは合計、Hはhorizontal、Vはvertical、Mはmomentです。先に正方向を決めます。右と上を正、反時計回りを正など、自分の符号規約を図へ書き、途中で変えません。答えが負なら、最初に仮定した向きと反対という意味です。

モーメントは「回そうとする効き」

ドアを蝶番の近くで押すより、取手で押す方が回しやすい。力の大きさが同じでも、回転中心から遠いほど回す効果は大きくなります。モーメントは、力×回転中心から作用線までの垂直距離です。

計算点を支点に選べば、その支点反力は腕の長さが0なのでモーメント式から消えます。未知数を一つずつ求めるための基本技です。斜めの力なら、力を水平・鉛直成分に分けるか、作用線までの最短距離を使います。

例題:中央に荷重Pを受ける単純支持ばり

長さLの梁を左のピンAと右のローラーBで支え、中央へ下向きの集中荷重Pを掛けます。左右対称なので、感覚的にも反力は半分ずつです。式で確かめます。

A点まわりのモーメントを取ると、RB × L − P × L/2 = 0。よってRB = P/2です。鉛直方向のつり合いRA + RB − P = 0へ代入し、RA = P/2となります。水平荷重がないので水平反力は0です。

ここで大切なのはP/2を暗記することではありません。荷重位置が中央からずれれば、近い支点の反力が大きくなります。毎回自由物体図とモーメント式へ戻れば、形が変わっても解けます。

部材を切ると、内側の力が見える

外力と反力がつり合っていても、梁の内部は力を伝えています。任意の位置で梁を切ったと想像し、片側だけを取り出します。切断面に現れるのが軸力N、せん断力Q、曲げモーメントMです。

切った左側または右側のつり合いからN、Q、Mを求めます。どちら側を使っても同じ断面の答えになるはずです。荷重が少ない側を選ぶと計算が短くなります。

せん断力は隣り合う断面をずらそうとする

紙の束を上下逆向きに押すと、層がずれて平行四辺形になります。梁のせん断力も、断面同士をずらそうとする内力です。中央集中荷重の例では、左半分で+P/2、荷重点を越えた瞬間にPだけ下がり、右半分で−P/2になります。

集中荷重がある位置で、せん断力図はその大きさだけ跳びます。分布荷重がある区間では、せん断力が傾いて変化します。図形を暗記するより、左から荷重の矢印を一つずつ拾って描きます。

中央集中荷重を受ける単純支持ばりのせん断力図と三角形の曲げモーメント図
荷重と反力からせん断力を追い、その積み重ねとして曲げモーメントを読みます。編集部作図。

曲げモーメントは梁を曲げようとする

中央集中荷重の単純支持ばりでは、支点で曲げモーメントは0、中央へ向かって直線的に増え、荷重点で最大PL/4になります。中央から右支点へは逆に0へ戻ります。

せん断力図の面積が、曲げモーメントの変化量になります。Qが正ならMは増え、Qが負ならMは減る。Qが0を横切る位置は、Mが極値になる候補です。この関係が分かると、二つの図を別々に暗記せずに済みます。

曲げると片側が縮み、片側が伸びる

梁が下向きにたわむ正曲げでは、上側が圧縮、下側が引張になります。その間には長さがほぼ変わらない中立軸があります。断面内の曲げ応力度は、中立軸から遠いほど大きくなるのが基本です。

曲げ応力度の基本式はσ = M / Z。σは曲げ応力度、Mは曲げモーメント、Zは断面係数です。同じMならZが大きい断面ほど応力度を小さくできます。梁せいを大きくすると効きやすい理由がここにあります。

軸力は引張と圧縮

部材の軸方向へ引っ張る力が引張軸力、押し縮める力が圧縮軸力です。平均的な軸応力度はσ = N / A。Nは軸力、Aは断面積です。

ただし圧縮材は、材料がつぶれる前に横へ曲がる座屈が起こることがあります。細長さ、端部条件、初期たわみが影響するため、N/Aだけで安全とは言えません。細い定規を両端から押すと、座屈の感覚が分かります。

部材に生じる引張、圧縮、せん断、曲げの力と変形を四つ並べた図
用語は暗記するより、部材がどう変形しようとするかと結び付けると理解しやすくなります。編集部作図。

応力と応力度を混同しない

軸力、せん断力、曲げモーメントは、断面に働く力の合計で断面力と呼ばれます。一方、応力度はその力が断面内にどう分布するかを、単位面積あたりで表します。

同じ10kNでも、細い部材と太い部材では応力度が違います。構造力学で断面力を求め、材料力学で応力度や変形を調べ、材料の強度と比べる。この役割分担を意識すると、式の位置づけが整理できます。

強さと硬さは別の性能

壊れないことが強さ、変形しにくいことが硬さです。許容応力度を満たしても、床が大きくたわめば歩きにくく、間仕切りや仕上げへひびが入り、建具が動きにくくなります。

梁のたわみは、荷重、スパン、支持条件、材料のヤング係数E、断面二次モーメントIで決まります。スパンが長くなる影響は大きく、少し長くしただけでもたわみが急増します。意匠で柱を抜く時、梁の見付けや天井高さが変わる理由です。

断面二次モーメントは材料の配置を表す

同じ断面積でも、材料を中立軸から遠くへ配置すると曲げに対して硬くなります。I形鋼のフランジが上下へ離れ、箱形断面が外周に材料を持つのはそのためです。材料の量だけでなく、どこに置くかが効きます。

紙を平らに持つとたわみますが、折って山形にすると硬くなる実験でも確認できます。断面形状は構造性能と同時に、設備貫通、耐火被覆、仕上げ、清掃にも影響します。

静定と不静定

三つのつり合い式だけで反力を求められる構造を静定構造と呼びます。未知反力が式より多く、変形の条件も必要になるのが不静定構造です。実際の建築骨組は剛接合や連続梁を持ち、不静定であることが多いです。

不静定は難しいだけでなく、複数部材で力を分担できる利点があります。一方、支点沈下や温度変化でも応力が生じます。まず静定で力の流れを学び、その後に変形適合条件へ進みます。

トラスとラーメンの違い

理想的なトラスは部材をピンでつなぎ、荷重を節点へ加えるため、各部材は主に軸力を負担します。ラーメン構造は柱と梁の接合部が回転へ抵抗し、軸力、せん断力、曲げモーメントを伝えます。

同じ四角い外観でも接合条件が違えば、力の流れは変わります。図面の線だけでなく、接合部が回転できるか、どこへブレースや壁があるかを読みます。

計算でよく起きる五つのミス

  1. 自由物体図を描かない:反力と内力が混ざる。
  2. 分布荷重の合力位置を誤る:面積だけ合ってもモーメントがずれる。
  3. 符号規約を途中で変える:負の意味が分からなくなる。
  4. 単位を混ぜる:kNとN、mとmmで桁が変わる。
  5. 答えの形を見ない:左右対称なのに反力が違うなど、物理的な異常を見逃す。

電卓を押す前に、答えの大きさと向きを予想します。荷重を二倍にすれば反力と断面力はどうなるか、スパンを二倍にすれば最大モーメントはどうなるか。比例関係を見る習慣が検算になります。

学ぶ順番を固定する

モデル化 → 自由物体図 → 支点反力 → 切断 → 断面力図 → 応力度 → 変形の順で一問ずつ進みます。公式集を最初から眺めるより、同じ単純梁で荷重位置だけを変え、図の変化を比べる方が理解は深まります。

答えを写す時も、式だけでなく自由物体図を描き直します。自分の言葉で「この支点は回転を止めない」「荷重点でQが下がる」と説明できれば、公式が知識へ変わっています。

建築を見る目へ戻す

構造力学は試験科目で終わりません。柱のない大空間を見たら、屋根荷重がどこへ流れるかを探す。片持ちバルコニーを見たら、固定端の曲げを想像する。細い柱を見たら、圧縮と座屈を考える。街の建築が立体的な問題集になります。

数式は建築を抽象化するための翻訳です。最初に建築があり、重さがあり、支える場所があります。矢印の向こうに実物を思い浮かべれば、構造力学は記号の壁ではなく、形が立っている理由を読む言語になります。

変形図は誇張して描く

実際の安全な梁のたわみは目で分かりにくいため、学習用の変形図では大きく誇張します。支点が移動できる方向、部材が曲がる向き、節点が回転するかを描くと、不静定構造の適合条件も理解しやすくなります。

ただし変形図は壊れた後の形ではなく、荷重を受けた時の傾向です。縮尺の正確さより、拘束と連続性が矛盾していないかを見ます。片持ち梁の固定端が回転していたり、ピン支点が空中へ移動したりしていないかを確認します。

答えを三つの方法で検算する

第一に、全体の力とモーメントがつり合うか。第二に、単位が合うか。第三に、変形する向きと断面力図が直感へ合うかを確かめます。荷重がない区間でせん断力が一定なら曲げモーメントは直線、等分布荷重区間ならせん断力は直線、曲げモーメントは放物線になるという関係も検算に使えます。

数値が出たことを終了にせず、図へ戻して意味を説明します。この往復ができれば、試験で符号を一つ誤っても自分で気づけます。

学習用ソフトや表計算を使う時も、最初の一問は手計算と自由物体図で照合します。入力した支持条件と単位が違えば、滑らかなグラフでも答えは正しくありません。計算機はつり合いを理解した後の反復に使うと効果的です。

参考資料

図と式は初学者向けの理想モデルです。符号規約は教科書・講義で異なる場合があります。実構造物の設計・診断には適用せず、資格を持つ構造設計者の判断を受けてください。